「人が感動してくれたらそれで十分」

舞台を動かすこと、そしてその舞台を使って公演するのには肝心な観客席(桟敷)作りが不可欠で、それぞれが実に大変な作業なのでした。舞台は回転するだけでなく、奈落から屋根裏に向かって六メートルほどせり上がります。この二方向の動きを心棒の付いた滑車とロープとを組み合わせた3次元的な仕掛けで実現しているのです。なんと、僅か十数メートル四方の舞台下の奈落(=地下)の石組みの中に30人もの人たちが潜り込み、寄ってたかってギリギリと回転軸を回します。同時に屋根裏に登っている20人が滑車に巻きつけられたロープを引き、舞台を上昇させます。さらに袖(そで)と裏(うら)では20人、外には30人の人たちが…。

たった数人が演じる舞台を動かすために裏方では100人もの人たちの力が必要なのです。そのうえ800人から1,000人を収容する「桟敷」の、巨大な木造アーチ屋根を造るには2ヶ月の期間と、延べ1,200人もの人の力が必要です。直径二十センチ、長さ15メートルもある杉の大木を左右から湾曲させて骨組みを造る作業も、プロの工事業者に依頼するなどというものではなくて、全て地元に住む180軒の住民たちが構成する伝承委員会のボランティア作業によって実施されています。僅か2日間の公演のために、こうしたとてつもないエネルギーが必要な舞台であることがこの「廻り舞台」の特徴であり、「幻の舞台」といわれる所以なのです。

地芝居サミットに合わせた桟敷建造工事で4代目伝承委員長である須藤明義さん6 8歳に聞きました。「オレがもの覚えがついてからでは今回で5回目の建造になるかなぁ…。」、「図面なんてもんは無いよ。じいさんやおやじから語り継がれてきた技(わざ)だから俺たちにしか造れないんだ。」、「2ヶ月掛けたって桟敷の命は2日でおしまいさ。終わったらぱっと壊して燃やしてしまう。粋でいなせな江戸文化ってやつだよ。来てくれた人たちが感動してくれたらそれで十分だね。」、…そんな一言が実に印象的で、名言のように心に残ります。子供たちの

「歌舞伎クラブ」

そんな大人たちの熱いエネルギーは子供たちにも浸透し始めています。「おじいちゃんが歌舞伎舞台を造るために働いているのを見て凄いと思いました。だから私もそこで演じてみたいと思ったんです。」、「歌舞伎舞台って格好いいです!」等々…。動機は様々ですが、かく言う出来事は10年ほど前からにわかに巻き起こってきていました。子供たちによる歌舞伎クラブが各地で結成されつつあったのです。赤城町の中学校には「歌舞伎愛好会」が、隣町には小学生による「子ども歌舞伎クラブ」が…、と。それぞれに歌舞伎を愛する地元の大人たちの指導の下に「子供役者」たちが晴れ舞台を目指し始めていたのです。もちろん「師匠」である大人たちは伝承を託す気持ちも手伝って真剣です。歌舞伎のカの字も知らなかった子供たちだからこそ一層厳しいゲキが飛ぶ稽古場。そんな大人たちに怒られながらも、上手くなって舞台に立ってみたいと願う子供たちが増えてきたというのです。
emeraude065005.gif
3-2
建築家/小見山健次
emeraude002016.gif
emeraude065004.gif
子供たちが「凄い!」と言った
子供たちの未来へのメッセージ
新春宣言-5
emeraude065003.jpg
emeraude065002.jpg
emeraude065001.jpg